「じゃあ、タコさんウインナーはどうだ?」 「…嫌いじゃない」 「卵焼きは?」 「…嫌いじゃない」 「こ、このハンバーグなんか…」 「…嫌いじゃない」 「じゃ、じゃあデザートのイチゴは…」 「…嫌いじゃない」 「むー…」 「…………」 「あのう、祐一さん」 「…ん?」 佐祐理さんが不思議そうな顔で俺を見ていた。 「さっきから、何をされてるんですか?」 さっきから俺がやってる事。 佐祐理さんのお弁当からおかずを選んで、舞に聞いてみる。 それの繰り返し。 「いや、舞にどうしても言わせたいセリフがあるんだ」 俺はそう答えた。 「はえー…」 「…………」 「そ、そうだ、舞、帰りに牛丼を奢ってやろう。どうだ?」 「食べすぎは太る」 「だあっ、そういう問題じゃなくてだな…」 「あ、あのう、祐一さん」 佐祐理さんがちょっと苦笑いしていた。 「…えーと」 思わず我に帰る。 「祐一さんひょっとして…」 佐祐理さんが何かを言いかけた。 キーンコーンカーンコーン… 「チャイム」 舞がすっと立ちあがる。 「あっ、いけないっ。今日は長居しすぎちゃいましたね」 佐祐理さんが慌ててお弁当を片付け出す。 「おっと。そうだな」 「…………」 舞がシートをたたみ出す。 「…ってこら。まだ俺と佐祐理さんが上にいるだろう」 「舞、急がなくてもちょっとくらい大丈夫だよ」 弁当箱を袋にしまう佐祐理さん。 「ほら、いいぞ」 俺もシートの上からどいて、反対側を持つ。 「…………」 もう片側の端を俺に渡す舞。 「よっ…と」 俺はシートの両端を合わせ、丁寧にたたんだ。 「はい、佐祐理さん」 「ありがとうございます、祐一さん」 ぺこりと頭を下げる佐祐理さん。 「では、また明日」 「おう。じゃあ、またな」 軽く手を振って、二人と別れた。 「さて…」 俺も教室に戻る。 「なあ、名雪」 教室に戻ると、いい具合に名雪がいたので話し掛けた。 「ん? 何? 祐一」 「おまえ、イチゴサンデーは好きか?」 そう聞くと名雪はにっこりと笑った。 「うん、大好きだよ」 「そうか…」 「急にどうしたの?」 「いや、それだけなんだが」 「…?」 …その日の名雪の頭の上には、?マークがしばらく浮かんでいた。 ………… ………… ………… 次の日。 俺はまた、この場所にいた。 「ほら、から揚げはどうだ?」 「…嫌いじゃない」 「じゃあ、この添え物は?」 「…嫌いじゃない」 「なら…ええい、俺のパンをやろう。どうだ?」 「…嫌いじゃない」 「うぐぅ…」 「あ、あのーっ…」 佐祐理さんがまた苦笑していた。 「いや、佐祐理さん。今日は作戦があるんだ」 俺は自信に満ちた声で答えた。 「はあ、作戦ですか」 「今度こそ上手く行くぞ」 「そうですか。頑張って下さいね」 にっこりと笑う佐祐理さん。 「おう」 …佐祐理さんの応援も受け、勇気100倍だ。 さっそく、今日の作戦を実行する。 ヒントは名雪だ。 「よーし、舞」 「…?」 俺は舞の前にすっと、さくらんぼを出す。 「舞、さくらんぼは…好きか?」 …そう。 『〜はどうだ?』 じゃ駄目だったんだな。 もっと直接的に聞かないと。 これならきっと… ……… 舞は少し考える仕草をした。 「…相当に嫌いじゃない」 …がくっ。 「ち、違うだろ…そうじゃなくてだなぁ…」 「…?」 「あ、あははーっ、ゆ、祐一さん、今日は、この辺で…」 佐祐理さんのフォロー。 「そ、そうだな…」 二人で弁当箱を片付け出す。 「…………」 舞は一人、さくらんぼを食べて、幸せそうに…は見えなかったが、 「美味しい」 と言っていた。 ………… ………… ………… また次の日。 「あれ? 舞は?」 「ちょっと遅れるって言ってました」 「そうか」 とりあえずシートに座る。 「あの、祐一さん」 「ん?」 佐祐理さんがちょっとはにかんだ。 「舞に好きって言って貰うのは、難しいですよ」 「…な、何故それを」 俺は少なからず動揺した。 …まさか佐祐理さんに見抜かれているとは。 「あははーっ、最近の祐一さんを見てればわかりますよ」 「そ、そうだったのか…」 うーむ、極めて自然を装っていたのだが… 「じゃあ、佐祐理さん。どうしたらいいと思う?」 佐祐理さんはすっと顔の前に指を出した。 「じゃあ、佐祐理が祐一さんに質問しますから、答えて下さいね」 「質問?」 「はい。祐一さんの思ったまま、答えて下さい」 「そうか。わかった」 佐祐理さんが何をしたいのかわからないが、とりあえず言う事を聞くことにした。 「では…祐一さんは、お勉強は好きですか?」 「嫌いだな」 あっさりと即答する。 「あははーっ、そうですか。では、佐祐理たちとお弁当を食べるのはどうですか?」 「そりゃ…まあ。好きだよ」 そう答えると、佐祐理さんは嬉しそうな顔をした。 「…ちょっと照れちゃいますね。じゃあ、最後に。祐一さんは舞の事、嫌いですか?」 「まさか。嫌いな訳ないだろう」 佐祐理さんが小さく息を吐いた。 「そういう事ですね」 「…え?」 佐祐理さんはにっこりと笑った。 「舞の事、嫌いですか、っていう質問は、同時に、舞の事好きですか、って聞いてるんですよ」 「…つまり、嫌いじゃないってのは好きって…あ」 「そういうことです」 「む…」 ちょっと考える。 「舞は、嫌いなことは嫌いって言いますから。嫌だ、っていうのは結構簡単なことなんですよ」 「うーむ」 「祐一さんだって、勉強は嫌いだ、ってすぐに答えたじゃないですか」 「確かに…」 「嫌いっていうことは案外自分でわかるものなんです。でも、好きっていうのはなかなかわからないんですよ?」 「そういうもんかなぁ…」 佐祐理さんがほほえんだ。 「それに、面と向かって好きだ、っていうのはちょっと恥ずかしいです」 「それも…そうか」 さっき、佐祐理さんたちと一緒に弁当を食べるのが好きだ、と答えたとき、やっぱりなんとなく照れくさかった。 「舞は照れ屋さんですから…なおさらです」 「うーん…」 俺は苦笑した。 「…無理強いは良くないか」 佐祐理さんがはにかんだ。 「佐祐理も、好きだ、って言って欲しい時がありましたけど。舞は舞なんです。だとしたら…」 「…嫌いじゃない、も舞の魅力、か」 「あははーっ」 佐祐理さんはそれに答えずに笑った。 「舞、今日はカニさんウインナーだよ」 「おっ?」 振り返ると、俺の後ろにはそいつがいた。 「…遅れた」 「ああ、いいぞ。気にしてないからな。さ、食おうぜ」 「…………」 頷いて、そっと佐祐理さんの隣に座った。 「さーて、今日のおかずは…と」 佐祐理さんの弁当箱を覗き込む。 「ねえ、舞」 「…………」 佐祐理さんが舞に話し掛けた。 「いま、幸せだよね」 「…………」 舞は少し考えて、答えた。 「佐祐理と祐一と一緒にいるのは、嫌いじゃないから」 end
あとがき どうもSPUです。 はじめましての方ははじめまして。 k'sさんのHP三万HIT突破記念SSということでほのぼの系を書いてみました。 読み終わった後に、なんかいいなあ、と思っていただければ幸いです(笑) ではでは。