授業中いつも寝ている俺だが、今日は目が冴えて眠れなかった。 そう、香里の事で頭が一杯になっていた。 今日の香里はどうしたんだ? 本当に記憶喪失なのか? チラッと横を見るた。 一生懸命黒板に書かれているものをノートに写している。 …いつも通りだよな。 いや、いつもは寝てて知らないけどな。 ふと気付くと、香里が俺に気付いてこっちを向いていた。 そして、笑顔を見せてくれた。 おかしい… いつもの香里なら、 『ちゃんと前を向いて先生の話聞きなさい』 って言うはずだ。 そんなことを考えていたら、あっという間に時間が過ぎて行った。 「祐一〜、お昼だよ〜」 いつも通り名雪が寄って来た。 「今日はどうするかな?」 いつもは俺と名雪と香里と北川の4人で食べているのだが、 北川は未だに石化しているので、そのままにしておくことにした。 「祐一さん」 隣の席で、香里が少しもじもじしていた。 「どうしたんだ? 香里」 「実は、私お弁当作ってきたんですよ。 それで、良かったら一緒に食べようと思って…」 「おぉ、香里の弁当か。 じゃあ3人で食べるか」 「香里のお弁当なんて久しぶりだよ〜」 早速俺は席を立ち、場所移動をしようとしたが、 香里が自分の机を俺の机にくっつけていた。 ……ここで食べるのか? 「あの、香里さん?」 俺の呼びかけが聞こえて無いのか、黙々とお弁当を広げている。 「さあ、召し上がってください」 すっかり香里のペースに巻き込まれた俺は、しかたなく教室で食べることにした。 周りの視線が痛い…… 午後の授業は体育だった。 今日はサッカー。 女子担当の先生がいないらしく、今日は男子の応援をしている。 いつも以上に張りきる男子達。 だが、俺は…… 「祐一〜がんばれ〜」 「祐一さん、私のために頑張ってください〜」 「か、香里! 私のためってどういうこと?」 「言葉通りですよ」 「う〜祐一は私のものだお〜」 「あらあら、それは言い過ぎよ、名雪。 祐一さんは私と相思相愛なんですよ」 「う、うそだお〜」 「あら? 嘘じゃないですよ。 だって…」 そんなやり取りをしている香里たちを横目でハラハラと見ながらサッカーをしていた。 「!! 祐一さん危ない!!」 「え?」 気付いた時はもう遅く、目の前が真っ暗になって行った。 気が付くと、香里の顔が目の前にあった。 「おはようございます」 「あぁ、おはよう」 俺は身体を起こすと、あたりを見まわした。 「ここは?」 「保健室ですよ」 めったに来ない保健室。 それに、もう日が傾きかけていて保健室全体が朱色に染まっていた。 「悪いな、こんな時間まで」 「気にしないで、好きで居たんだから」 「あぁ…」 学校からの帰り道、どことなくぎこちない雰囲気で俺たちは家路に向かった。 香里は秋子さんに用があるらしく、一緒に水瀬家に向かった。 「ただいま〜」 「おじゃまします」 玄関を開けると、真っ先に真琴が飛んできた。 「あう〜、ゆういち〜」 目に涙を溜めて飛びついてきた。 「ど、どうしたんだ? 真琴?」 「あう〜、秋子さんが変になっちゃったよぅ」 「変って…」 たしかに、今朝から少しおかしかったが…… 香里といい、秋子さんといいどうしたんだ? 俺は夕食が出来るまで自分の部屋に居た。 香里は秋子さんと一緒に夕食を作っている。 真琴は俺のベットを占領してガタガタ震えていた。 「真琴、どうしたんだ? 秋子さんが何かしたのか?」 「うん、実は………」 ポカッ! 「いた〜い。 何で叩くのよ!」 「あたり前だろ! お昼前に肉まん食べれば誰だって注意するだろ!」 「でも、いつもの秋子さんだったら、もっと肉まん作ってくれて『お昼は肉まんね』って言ってくれたの〜」 秋子さん……甘やかし過ぎですよ。 夕食ができ、下に降りて行った。 「う、これは……」 食卓には明らかにいつもとは違う料理が並んでいた。 なんて言えばいいんだろう……一言で表現するなら『謎のオレンジ色』? もうすでに食べている名雪は貪りつくように食べている。 一種の麻薬的症状だろうか… 「沢山食べてね」 秋子さんと香里の笑顔が恐く見える。 とにかく俺はこの難関を回避するべく、一芝居打つことにした。 「すみません、今日ちょっと体調がすぐれなくて……」 そういうと、秋子さんが薬箱からビンを1つ取り出した。 「しかたないわね。 これ飲んで寝てなさい」 ビンには『風邪薬』と書いてあった。 ……こんな直球なネーミングの薬あったか? 少し不安だったが、色、形も普通の薬だったので飲んだ。 真琴には悪いが、先に部屋に戻ることにした。 「ふ〜、アレを食べるんだったら1食抜いた方が良いな」 しばらくベットに寝てくつろいでいると、いつのまにか寝てしまった。 な、なんだ? 声が聞こえる…… 「ふふふ、やっぱり寝てますね、香里さん」 !! 香里が自分で香里さん言ってるぞ。 「ええ、今日学校の方はどうでした?」 「バッチリですよ。 私も久しぶりに楽しませていただきました」 「秋子さん、ありがとうございます」 そうか、香里と秋子さんの心を入れ替えたのか……できるのか? …秋子さんなら出来そうだ。 「いえいえ、香里さんこそ『新作』を食べてくれましたからね」 「ハ、ハハッハッハハ……」 アレを食べるとは……香里やるな! 「それより、これからどうします?」 「香里さんはどうしたいですか?」 「…じゃあ、泊まっていってもいいですか?」 「了承♪ じゃあ身体元に戻しましょうね」 「はい♪」 これで、香里は香里に、秋子さんは秋子さんに戻るのか。 「これでよし、じゃあパジャマとお布団は………いらないですね♪」 「…………」 いらないって……も、もしや! 「あらあら、そんなに真っ赤になって…若いっていいですね」 「からかわないでください!」 「ふふふっ、じゃあ、頑張ってくださいね♪」 「何を頑張るんですか!!」 何を頑張るんですか!! 「もう、秋子さんたら……」 「……おやすみなさい、あいざ…祐一くん♪」 香里らしい強引さというか…… それにしても、アレを食べるほど俺のことを…… 朝起きた時、香里が隣りで寝ていたことは言うまでもない。 それと、2人とも全裸だったことも…… 翌朝、俺たちは手を繋いで登校していった。 名雪と真琴は……想像通りだ。 夏の陽射しが2人を祝福しているようだった。 おわり
あとがき どうも、和井です。 ちょい長くなってしまいましたが、どうでしょう? 少し強引な流れですが、勘弁してください。