ORIGINAL GENERATIONS の何か








      - op -

 日本国、阿蘇基地。
 PT(パーソナルトルーパー)戦を中心とした現代において地球連邦の中でも最新鋭機体の生産性に強い極東地域にある基地である。
 しかし、その評価も伊豆と比べ雲泥の差があり、阿蘇基地は僻地とも言うべきであった。




 フロントコンソールを凝視し、外輪山の急傾斜を駆け下りる。
 しかし、人のそれではなく、おおよそ18mにも達する巨大な人型機体による滑走。  パーソナルトルーパーであった。
「こちら、ポイントS−14・ミフネに到着、アリアケからの敵機援軍を確認しました」
 報告と平行して脅威警戒パネルを確認する。現在地点である御船と印された先には多くの光点反応が現れていた。
 最初の敵機が確認されたのは20余分前。
 僅か5機の敵機が確認された直後、西方の有明海上に敵の本軍と思われる軍勢が大挙して現れたのだった。
「こちら管制、こちら側では敵機の数がジャミングにより掴めない。この際だ、目視で構わない、敵機は如何程か連絡求む。どうぞ」
 通信妨害か何かで通信施設も孤立しているのか。
 数押しの作戦かと思いきや、よほど周到な作戦らしい。
 しかし、目の前に広がるコンソール上でも赤の点で覆われたような大群が映っている。  これを数えろと言われても、どうしろというのか。
「あーもぅっ、見る限り一杯ですよ。どうぞっ」
 距離はまだあるが数分で戦闘開始の距離か―――
、こちらは残り1機だ、残機はササキに任せて、アンドウとそっちへ向かう。それまで持たせろ!」
 リーダーである友軍機からの連絡。しかし、その所在は更に南に位置していた。
 展開された敵機の数は計り知れない。
「―――了解」
 それを前にして出撃したのは分断された6機。
 コントロールスティックを握った手は汗ばんでいた。
 実戦は派兵時に経験したものの、十回に満たぬ戦闘経験では慣れないのも無理はなかった。
「戦いになんて慣れたくもないけどな…」
 手に持ったライフルを静かに構え直す。
 射程距離まであと1500……1000……500……
 最初の敵機5機が確認されて三十分が経過していた―――






 東西18km、南北25km、 周囲128km
 それが阿蘇山たらしめる世界最大級の阿蘇カルデラ、阿蘇外輪山である。
 阿蘇カルデラ自体を地球連邦における軍事再編成のおりに接収し、軍事基地として利用したのが阿蘇基地である。
 ただ、山といえどカルデラである。
 遥か過去に起きた大規模な火砕流を伴う噴火によって形成された大地の広大さは申し分の無いものであった。

 その中心で3機のPTが駈けていた。
「こちら。 援護する!」
 そう叫ぶや否や前方にライフルを向け、シマの乗る友軍機に襲い掛かろうとした敵機に弾を撃ち込む。
 だが、それは敵機が脚部スラスターを吹く事で回避され、その後方の建物に着弾した。
 しかし、爆発はなく、黄色の塗料が壁に塗りつけられただけだ。
 演習用のペイント弾。
「まだまだだな、これでは受けてはやれんぞ、伍長」
 そして、敵機から放たれた弾道は友軍シマ機の左胸部で塗料が四散。
 ヨネクラ大尉の攻撃は的確に撃破のスコアを叩き出していた。
 それはシマ機の敗退を意味するのだが、誰もがそれを意識する事は無かった。
 塗料が付着した直後、数キロ先で大きな爆発音が鳴り響いたからである。
「外輪山、西原方向で爆発を確認した」
 索敵に長けた機体に乗るササキ中尉がすぐさま答える。
「どうした? 今の演目は演習実行要綱には無かったぞ!」
 ヨネクラ大尉が管制棟の職員に怒鳴り上げる。
「管制より緊急連絡、基地南部・下益城の方面より敵機。その数は5、リオン系のものと思われる。所属はUnknown。繰り返す…」
 繰り返し現在の状況が管制から通信コンソールより鳴り響く。
「リオンだぁ? そりゃDCだろ。ついに阿蘇にも来たのか、もの好きな奴らだ」
 演習では待機していたアンドウ中尉もまたヒュッケバインを駆りブーステッドライフルをヨネクラに渡す。
 口を歪ませながら、ヨネクラは演習銃から実戦銃に持ち替え指示を飛ばす。
「聞いたか、これは演習ではない実戦だ。俺とアンドウ、ササキは3人体制を一組で行動とする」
 その指示によりアンドウとササキは演習用の銃器を機体から外し、実戦用として持っていた武器だけを残す。
 機動性に重きを置いたリオン系と聞き、自機の運動性を高めるべく可能な限り軽くする為だった。
「大尉、自分らの装備は全て演習用となってますが―――どうすれば?」
 同じヒヨッコ扱いを受けているシマが隊長格のヨネクラに問う。
「まずお前らは基地で装備を換えろ。それほどの暇は無い、手持ちの武器だけで十分だ。シマ、アラキは基地の防衛に専念」
「りょぉっ―――了解しましたっ」
 シマは待機していたアラキと共に基地内にPTを移動させてゆく。
 敵の目的がこの基地であれば最終的には基地に辿り着かねばならない。
 故に阿蘇基地配備の戦力が少ないとはいえ、それにも足らない少数の敵で攻めてきたという不可解な点から基地の防備は必須だった。
 どういう手で来るのかが予想がつかない。
 ただ、確信を持って言えるのは、敵が増援を用意している点は間違いないだろうという事だった。
 ならば下げるなら実戦経験の無い2人というのは妥当だ。
 明らかにシマの声は上ずり、2人は狼狽していた。
 援軍が何処から現れるか判らないが、時期を見て早急に決断を下さないといけない。
 それが出来なければ、ただただ時間を浪費する事となり、それが最悪の事態を引き起こしかねなかった。
、お前は第2陣として西方を防護しろ。来るならば大洋ではなく大陸側だろうからな」
 ならば、一度アフリカの戦線の大地を駈けた自分は何が出来るのだろうか。
「了解、御船辺りで張ります」
 後方援護となれば使うのは中距離射程で弾数も多めなフォトンライフルあたりか。
 すぐさま任務に適した武器を選定し、倉庫へと向かい取りに行く。
「まずはそのリオン5機を落とすとしますかね」
 流石にたった5機とは思えないですし、前菜でしょうね―――ササキ中尉は敵機を機体のフロントコンソールで確認し呟く。
「しかし、この天候―――嫌な曇天だな」
 その呟きを聞き誰もが空を見上げた。
 黒く、そして分厚い雲に太陽の光は遮られ、昼を回ったばかりの時間だというのに明るさというものがない。
 雨が降っていないだけマシか。
 ただ、なんでもない演習が行なえる程度の天候と考えていた空が不吉な凶兆のように思えてくる。
 これから何が起こるのか、誰もが口には出さなかったが不安を抱えていた。
「第1陣、突貫するぞ」
 行ってみれば分かる事だと、第1陣は下益城へ向かった。



「まったく空き地に何の用なんだかね?」
 北方向に向かった機体より内部コード通信が入る―――この声はPT部隊のリーダーであるヨネクラ大尉だった。
 基地西部に最高速で向かうと同時に天を仰いで毒を吐くように嘆く。
 リオン1機が残されていたがササキ中尉が対応を行なっているはずだ。
「大尉、『空き地』なんて基地長に聞かれたらどやされますよ」
 そう答えながら、既に始まった戦闘の合図に機体を大きく左前にスライドを開始させた。
 『空き地』とは他の基地から蔑まれて呼ばれる時に使われる不名誉な阿蘇基地の別名である。
 僻地であり、大した装備も回されず、基地の部隊規模も小さい上に、ロートルが多い。
 過去、それほどの脅威に遭っていない為というのが理由といえば理由なのだが、
 阿蘇基地への転属は窓際と同じと考えられているようだ。
 中央の出世街道から外れた者の溜まり場―――
 そんな中で、阿蘇の頭文字と基地を繋げた嘲りを含んだ呼称で呼ばれ始めたのである。
、聞かれない為の内部コード通信だろうが」
 後方に熱反応。
 先ほどに居た地点をビームとミサイルが通過し、外輪山に叩き込まれていく。
 コンソールのワーニングモニターは鳴り止む事は無く、既に敵機はコンソールのズームではなく視認可能となっていたのだった。
 まだ撃つな―――、十分に引き付けろ―――
 しかし、見た事の無い機体が多い。
 リオン系の機体はリオンFだろうが、それ以外の機体はリオン系列であろう事は確かだが、見た事が無いものばかりだった。
 但し、DC軍である事は間違いは無いらしい。
 狙いの的になる訳にはいかない―――当てずっぽうではなく、意思でもって常に自分の位置を変えろ。
 自身の機体を横に跳躍させながら狙いを定める。
 標準―――良し。
 フォトンライフルを先頭のリオンFに向けて発射する。
 次の瞬間には四散していた。
 しかし、すぐさまにリオンFとUnknownの突貫が続く。
 これだけ居るのなら適当に撃ってもどれかに当たるんじゃないだろうか。
「まぁ、『空き地』始まって以来のバーゲンセールなんだ、そういう意味じゃ今は『空き地』じゃないわな」
 アンドウ中尉が外輪山上からミサイルランチャーを撃ち降ろしながら賛同する。
「違いない。しかし、閉店セールではなく開店セールにしたいもんだがなぁ」
「閉店セールでも、いつまで経っても閉めない店もあるしな。ほら、美里んとこの家具屋とかそうだろ。2年も経ってるんだがな。いつ閉めるんだ?」
 確かに始まって以来かもしれない。
 自分はここに来て大した年数は経っていないが、大御所のパイロットがそう言っているのだから間違いない。
 聞きようによってはブラックジョークに違いないが。
 ヨネクラ大尉を初めとしたこの基地の人員は悪く言えばロートルだが、叩き上げの軍人が多く、若いのは自分を含めたパイロット3人ぐらいだ。
 戦績豊富な彼らの言う事はまず間違ってはいない。
 DCの手によって新機体が奪われたという情報を得てはいたし、伊豆基地すらもが落ちたという情報もあった。
 そして、米国のテスラ研がゲストの手に落ちたという前情報が飛び込んできたのは数日前の事。
 情勢は確かに悪い。
 だが、PT生産性も無く、これほどの僻地まで大攻勢でもって手を伸ばしてくるとは思わなかった。
 いや、確かに被害無く落とすには数で攻めるのが正しいのだろうが―――
 他人事のように考えられていた事は事実だっただろう。
 しかし、このご時世だ、懸念しようにも戦力は『空き地』には回っては来なかったに違いない。
 世界中でDC反抗作戦に敗れ去っているのだ。
「まったくっ、アフリカでもこんなに不利じゃなかったぞ」
 出撃から時間が経たないうちに、叫びながら後退と左右の振り子を続ける。
 明らかに圧されていた。
 全ての機体が基地を離れない程度に散開し、手持ちの射撃武器を乱射していた。
 初めから軍勢からして攻勢は決していたのだ。
 ヒュッケバインMkU−MC、
 それも通常搭載されている飛行機能を外したような機体では上空からの攻撃は脅威に他ならなかった。
 但し、地上戦の機能は特化されている。
 脚部に強化されたスラスターは短時間ながらもホバー移動をも可能となる噴射力を誇る。
 新機体の製作時に検討され『使えない』と烙印が押されて阿蘇基地にまわってきたものだったが、今はノーマルの機体ではない点ぐらいは感謝しよう。
 急斜面である外輪山を利用しない訳はない。
 フォトンライフルを上空に叩き込みながら外輪山を大きく西に回りこんでゆく。
 各所で爆発音が鳴り響く。
 しかし、何機を撃墜し、もはや誰が生き残って、誰が堕ちたのか―――そんな事を確かめる瞬間など存在していなかった。
 通信ですら音声ではなく、指揮系統の混乱の模様だけを伝えているようなものだったのだ。
 
「なんだっ、あれはっ、お・・・大きいっ!!」
 その叫びはアラキか、という事は―――後方の基地を取られたのか。
 後方モニターは基地上空を映し出す。
 防戦一方の中、それを弄ぶように上空に一際異形を放つ機体が舞い降りる。
 深緑に照らされたゴツゴツしいUnknownの重PT。
「くそっ、ここに来て本命か―――」
 どのような状況下であっても覆すような性能を持つPT。
 ある機体は一点防備に長けた性能を、ある機体は高機動戦闘に特化した機能を。
 しかし、あれは―――腕の鉤爪、背中に据えられた巨大な砲身。
 言い表すならば、全身が武器のような形状。
 あれは攻撃に特化した破壊の特機。

 その時、今日何度聞いたか判らないアラームが鳴り響く。

 すぐさま特機に気を取られた事によるタイムラグを解消するべく、敵からのロックオンアラームに対処すべく周囲を索敵する。
 戦場で何か一点に見とれるな、常に戦況の動向を掴め―――ここに来てヨネクラ大尉に教えられた事だった。
 どんな状況でも慌てるな、むしろ冷静になれ。
 まずは自身を狙う敵から対処しろ。
 危険を示すコンソールの光点を確認、真横と、上空のそれぞれにリオン2機。
 対処に優先させるべきは―――上空のリオンFの方が速い。
 振り上げたヒュッケバインが持つライフルが黒ずんだ空に溶ける。
 そのまま上空にビーム弾を放った。
 着弾と同時に爆発。
 真横から突撃してきたリオンはビームソードで薙ぎ払う。
「基地を押さえられれば、完全に負けだ」
 シマとアラキが基地には居るはずだがこの状況で特機までの対処は無理だ。
 そう自分に言い聞かせながら脚部のスラスターで急傾斜を駆け上り、基地に降り立った特機へとライフルの照準を定める。
 照準機が特機に向け―――その時に確認した。
 左胸に黄色の円状のペイントが施された機体が炎を上げ爆発する瞬間を―――
「くそったれっ!!」
 あれだけの重PTだ、運動性は低いはず―――3点射撃でいけば当たる。
 そう言い聞かせ、左腕の刃を突き立てた直後の特機に狙いを付ける。
「落ちろっ!!」
 右人差し指のマニピュレーターがフォトンライフルの引き金を引き、3つの光球を撃ち出す。
 しかし、着弾すら許さず、すぐさま返し撃ってきたWブレイカーによって右腕もろともライフルが弾け飛ぶ。
 それは一瞬の出来事だった。
 重PTが揺れて消えたかと思うと自機が大きく爆発で揺れ動いた。
 大きく揺さぶられるが、直撃ではない。
 完全にシステムは右腕を切り離した事をインデックスコンソールが示していた。
 誘爆は―――無い。
 だが、攻撃手段を失うには十分過ぎる一撃であり、敵機の性能を大きく見誤った事を知る。
 その時、あの黒い重MSがこちらを睨んでいるような錯覚に陥った。
 もちろんモビルスーツにそのような機能は無い。
 だが、これが死を前にした恐怖という感情なのだろうか。
 しかし―――



「気にする程でもない相手……」

「なっ―――!?」
 突然入った通信に驚く。
 それは敵機からの入電だったからなのか、重PTに似つかわしくない女性の声だったからなのか―――
 興味が失せたかのように、腰の重武装を取り出し、バーニアーの熱風を地面に叩きつけながら上空に舞い上がる。
 そして、その破壊の巨砲より放たれた黒き雷の嵐が尽く基地を焼き尽くす。
 コンクリートで出来た森は一瞬にして失われた。
 特機から基地に目掛け、ランチャー砲を撃たれた事で、一切の戦闘は終結した。
 その一撃でもって基地は完全に沈黙したからである。
 自分はただその様を眺めていた。
「生き残ってるヤツはこれからカスガに高飛びするぞ。徒歩のヤツはなんでも良い、車両で退避。PTは支援しろっ!」
 それが合図だった。
 ヨネクラ大尉の通信が連邦軍の通信に乗った瞬間に自軍は防衛の任務を捨てた。
 この後の事はあまり記憶に無い。
 思い出すのは生き恥を晒すかのように見逃された事と、あの声が頭を響いていた。
 この感情は破壊した敵への怒りなのか、何も出来なかった自分への憎悪なのか。
 その中で確固たる事実であるのは、ヨネクラ大尉の指示によって春日防衛基地に命からがらで逃走した事であった。
 春日に辿りついた時の生存者はPT3機を含め、たったの10余名。
 自分たちは負けたのだった。








「オウカ・ナギサ。ただいま帰還致しました」
 そういってドアより入ってきたのは黒髪の女性だった。
「基地の確保が作戦内容だ。何故あそこまで破壊してしまったんだ。まったく」
 艦長は頭を抱えながら毒を吐くように椅子に座りながら呟く。
「ASK−G03Cのロールアウトテストに過ぎません」
 そう言った直後に艦長には興味を失ったように、その横に待機していた技術者に視線を移す。
「それで、どうでしたか?」
 技術師が結果を尋ねる。
 ASK−G03Cと呼ばれた機体、ラピエサージュの性能は如何ほどだったかと。
「十分です。すぐに前線に投入しても問題ないでしょう」
 それは言葉を聞くまでも無い戦績だった。
 窺い知れない軍勢から提供された機体であった為、一応は不具合を想定しての大群の導入だったが、それも必要なかったらしい。
 この程度の敵軍であったなら一機でも事足りただろう。
 これで技術者の手を離れ、最後の調整に入る事になる。
 本格的にこの機体が戦線を駆けるまで、もはや1ヶ月もかからない。
「気に入って頂いて何よりです。この後にセトメ博士に引き渡しておきます。なにやら拡張OSを付けたいそうですので」
「了解しました」
 オウカの回答を聞くや否や、技術者は使用後の機体の方に興味があるのか「それでは失礼」と告げ慇懃に礼をして駆け早にドッグに向かっていった。
「それでは、私も自室に戻ります。迎えが来ましたら知らせて下さい」
 そして、ブリッジの中が艦の乗組員だけとなった時、
「ふんっ、人形風情が―――」
 艦長は艦で誰に聞かれるでもなく呟いた。








「転属―――ですか?」
 春日防衛基地に慌しく到着した翌日に基地長に呼ばれ、事務机の並ぶ一室に通されていた。
 事務室は電話の応対や、怒鳴り声で埋め尽くされていた。
 その声から聞く限りでは、阿蘇が落とされたが潰滅といってもよく基地としては全く機能しなかったようだ。
 その為、DC軍は奪いはしたものの駐留する為の作業に追われているらしい。
 確かにあのランチャー砲の威力は並みのものではなかった。
 いろいろな情報が飛び交う、そんな洪水のような情報の中で基地長と直接話しているのだった。
 否応がなく緊張が走っていた。

 だが、告げられたのは転属。

 このまま阿蘇基地への反抗作戦、または防衛に就くのかと思っていたんだがな―――
「まさかこの基地で抗戦出来る軍勢ではないだろう」
 疑問に思っていた事を悟っていたかのように基地長が答える。
 顔に出ていたようだ。
「この基地の大半が戦闘機に戦車だ。数少ないPTは3機で、その内の1機は右腕を失っている。そう、君たちの乗ってきたPTのみなのだよ」
 春日防衛基地は都市の中で僅かな面積の土地上で形成されている。
 防衛の管制要地である福岡防衛局の近親として配置されているのだが、機動戦を重きに置いた配置ではない。
 あくまで防衛のそれであり、一点集中を避け配置されたに過ぎない。
 肝心のPTは攻性な組織である伊豆に配置は集中していたのだ。
「先ほど福岡防衛局はこの地から一時移転して関西でもって軍勢を集結する事を決めたそうだ」
「では、自分も関西へ移動という事ですね」
 関西―――あくまで伊豆までは戦線は引っ張らないつもりらしい。
 西日本のプライドというものなのか。
 しかし、戦線移動ではなく転属という言葉の意味は他にあった。
「いや、伍長。君には派兵に加わってもらいたい」
 掛けていた眼鏡を直しながら手に持っていた封筒に入った書類を差し出される。
 そこには戦力補強要請書とあった。
「地球連邦政府より度々の戦力増強の要請があっていてね。過去に経験のある君を送る事となった」
 むしろ戦陣を整えたい福岡管制局はベテランパイロットをこの時期に放出はしない。
 ならば、経験乏しくPTすらも壊れた自分、という事か―――
 派兵となれば、海外。
 ヨネクラ大尉やアンドウ中尉に比べ独り者の自分が適任といえば適任か。
 そして、横でけたましく鳴り続ける受話器を手に取ると共に、話しはこれで終わりだとばかりに基地長は言葉を続けた。
「場所は―――北米、ハガネが新たな転属先だ」